デート18 プロポーズ
「じゃあ、てるてるぼうずを作らなきゃね」
そんな彼女との電話のやりとりも効果は無かったようだ。
窓を開ければ外は一面の銀世界。
テレビをつければニュースキャスターが東京は数年ぶりの大雪と告げている。
チラリと机の横に飾ってあるてるてるぼうずを見れば、「顔は大事」と言われて書いたニッコリ顔が僕を「まぁがんばれや」と微笑み返している。
軽くため息をしてあらためて窓の外を見れば、雪はなお勢いよく降り続き町を白く被い続けていた。
今日は特別な日、おそらくは僕と彼女にとって一生の記憶に残る日となるはずだ。
本当は車で出かけたかったのだけれど、こんな雪では無理だから電車で移動。
待ち合わせはいつもの通り彼女の自宅近くの改札口に余裕をもって15分前に到着して彼女を待つ。
「ちょっといいお店でディナーにしよう。僕はスーツで行くから」
こんな誘い方、今日の目的がミエミエだね。
スーツを着れば僕は3割り増しでカッコ良く見えると言ってくれたけど、今日はダッフルコートを着ているから効果も半減。
ゴム底のブーツで来たけどこの雪じゃ歩くのに気をつけなくちゃ。
待ち合わせ時間の5分前。
いつもの笑顔で彼女が現れる。
今日のクライマックスも笑顔で返事してくれるのかな。
電車に揺られて都内に。
目的のレストランのビルは最寄の駅から数分の所。
ほら雪ですべるから足元気をつけて。
まだ時間があるね、お茶でもしよう。
今日も綺麗だね、あ、クリスマスに贈ったペンダントして来てくれたんだ、嬉しいよ。
でもこんな雪の日に予約しちゃってごめんね。
「ちょっとお手洗い言ってくるね」
そう彼女に言って喫茶店を出る。
僕は喫茶店の並びのフラワーショップに先週頼んでおいた品物の代金を払いに。
「それじゃこれは後で届けてください」
地下2階から地上46階まで一気に上がるエレベーターは壮観。
でも外は雪模様で夜景が霞んでしまっているのが残念。
目的のレストランはもう1つ上の最上階。
来たことあるかって?
あるわけないよ君のために選んだんだよ。
コートを預けてレストランのスタッフに案内されて店の奥に。
意外と広いこの店の一番奥の個室、そこが今日の僕と君とのステージ。
少し驚く君、微笑む僕。
洒落た言葉やうっとりとした会話とは無縁の話。
「たかそー」とか「おいしー」とか。
「これこのフォーク使うのかな」なんてのも。
飲み物も互いにソフトドリンク。
この店をいつも使っているような人達とはおよそかけ離れた会話と飲み物だけれど。
そんな事を楽しく話す君を好きになったんだ。
前菜、スープ、パスタ、メインとコースは続く。
そして僕の鼓動は少しづつ早くなる。
出会ってまだ3ヶ月、普通ならば早いと考えるだろうな。
でも僕の心は決まっている。
メインが終わって次はデザート。
「プロポーズに使おうと思って」
1週間前にレストランの受付で発した言葉。
ちょっと周りに人が居て恥ずかしかったけれど。
「頼んであるものが届くのでデザートの時に持ってきてください」
運命のデザートが運ばれてくる。
メインが終わってから僕は結構挙動不審。
お皿を下げられたり、シルバーを取替えたり、お口直しが入ったり、凄い時間が経過した錯覚。
デザートを運んで来てくれたスタッフの後ろにもう一人。
外国人のスタッフからその手に花束を抱えてる。
彼女の歳と同じ数の赤い薔薇。
スタッフが微笑みながら僕に花束を渡す。
受け取る僕。
振り向く僕。
驚く彼女。
歩み寄る僕。
そして彼女の瞳を見つめる。
立とうとした彼女を制止して、僕は彼女の前でひざまずく。
初めに彼女の名前を。
次に出会って嬉しかった事を。
そしてこれからの事を。
最後今日この瞬間彼女に伝えればならない一番大事な言葉を。
何を食べたか覚えられないようなデザートが終わって席を移動した。
いつの間にか雪は小雨に変わったみたい。
スタッフのはからいで、このレストラン自慢の夜景が見える席に移動する。
遠めにお台場、レインボーブリッジ。
すこしピンボケ風だけど夜景を観ることが出来た。
「今度は夜景が良く見える日に来たいな」と僕。
「じゃあいつがいい?」これは彼女。
「そうそうは来れないよね。特別な日かな」
「特別な日?」
「そう、特別な日」
「じゃ特別な日を2人でいっぱいつくらないとね」
僕は彼女の手に手を重ねる。
そして軽く握った。
もうすぐ僕はこの女性と結婚する。